今回のテーマは
「プラスチックの吸水」についてです。
そもそもプラスチックは水を吸うのでしょうか?
皆さんどう思われますか?
答えは、、、
【 プラスチックの種類によって異なる 】
というのが正解です。
ちょっとだけ吸うものもあれば、かなり吸うものもあります。
逆に全く吸わないものもあります。
吸う量を具体的に数値化したものを“吸水率”と言います。
測定方法はJIS規格などで、
測るものの大きさや、水に浸す時間、温度などが決められています。
水を吸う(吸水性)プラスチックは吸水するとどうなるのでしょうか?
お吸い物に入れるお麩や、乾燥わかめなどは、
水に浸すと、吸水して大きく膨らみます。
吸水性プラスチックも同様で、水を吸うと膨張したり変形したりします。
ここでプラスチックを吸水率別で紹介したいと思います。
●吸水率1%以上
セルロース系樹脂、ナイロン、ウレタン樹脂
●吸水率0.1~1%
フェノール系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、
ポリエチレンテレフタレート、アクリル樹脂、ポリカーボネート
●吸水率0.1%以下
テフロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、
ポリ塩化ビニリデン、
などがあります。
(※データによっては試験方法が異なる場合があり、
上記の数値に当てはまらない場合も御座います)
吸水率の高いもの、あるいは低いものにはそれぞれ何か特徴があるのでしょうか?
調べてみると面白い事が見えてきました!
ちょっとした化学の法則があるようです。
殆ど吸水しない樹脂は、分子構造として
“炭素(C)”、“水素(H)”、
などの元素だけで作られている事が多く、
吸水率が高い樹脂になるほど
“酸素(O)”や“水酸基(OH)”
を含む傾向が強い様です。
実は、“酸素”や“水酸基”が入っていると、
水を吸いやすくなる傾向があるんです。
水というのはH2Oなので、酸素(O)や、水酸基(OH)と仲が良いんですね。
(傾向があるというだけで、全てに当てはまる訳ではありません)
我々の業界で水を吸いやすいと言えば、
真っ先に名前が挙がるのは“ナイロン“なんですが、
このナイロンについて少しお話したいと思います。
ナイロンの種類は実に色々とありまして、、、
主なものを挙げると、
ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66 などがあります。
この中で吸水率順に並べると、
ナイロン6(1.9~1.3%)>ナイロン66(1.5%)>ナイロン11(0.4%)>ナイロン12(0.25%)
の順になり、同じナイロンでも“ナイロン12”の様に
あまり吸わないものもあれば、
吸水性の高い“ナイロン6”の様なものもあり、
その差は1%以上の開きがあるんです。
ちなみに軸受や加工品などでは“モノマーキャストナイロン”という素材が
使われていますが、これもナイロンであり、
通常のナイロンの特徴を向上させた素材です。
“ナイロン”とひとくちに言っても上記の通り種類は様々ですし、
ナイロンだからというだけで、
必ずしも水を吸いやすいという訳ではないんです。
中でも“ナイロン6”や“ナイロン66”は吸水性が非常に高いので、
衣服などでよく使われています。吸水性の高い方が汗を吸収しやすいですからね。
ちなみに、洋服のタグを見ているとナイロン以外にも“ポリエステル”
というのも良く見ますよね?
ポリエステルもナイロンと同じように吸水率が高く、それを活かして
衣服などに使われています。
また、素材自体も吸水性に優れていますが、素材の間に隙間を作ったりして、
更に吸水性をよくする工夫がされているようです。
スポンジを思い浮かべてもらうと解りやすいと思います。
スポンジは“セルロース”や“ウレタン”などの
高吸水性プラスチックが使われることが多いのですが、
細かな孔をたくさん開ける事により、より吸水性を高めているんです。
更には、“SAP”という高吸水性ポリマーがあるのですが、
この材質は、自重の100~1000倍もの水分を吸水できるそうです。
自重の100~1000倍ってすごいですよね?
そんなすごい物が、一体どのような所に使用されているかというと、
紙おむつ、芳香剤、農園芸用土壌保水剤、コンタクトレンズなどに
使われているんです。
以上の例は吸水率の高さを利用した例ですが、
逆に吸水率の低さを利用して使用されている事もあります。
例えばテフロン、この素材は基本的に吸水しないんです。
前回のメルマガにもでてきましたが、東京ドームの屋根に使用されています。
吸水してしまうと、水の重さで屋根が耐えられなくなってしまうからだそうです。
このように水を吸いやすい樹脂、吸いにくい樹脂、全く吸わない樹脂、
種類によって様々なんです。
ただし吸水率が高いから良いとか、低いから悪いという訳ではありません。
どんな樹脂にもちゃんとその特徴にあった使い道があるんですね。
一方弊社で製作している軸受などでは、吸水率が高いと悪影響を
及ぼす場合があります。
例えば、スベリ軸受。
スベリ軸受は、軸受内径と軸との間にクリアランス(隙間)を設けておかないと
回転不良を起こしやすくなってしまうのですが、
吸水性のプラスチックを水中で使用すると膨張してしてしまって
クリアランスがなくなってしまう恐れがあります。
もしも前もって水分の多い環境で使用される事が
分かっているような場合は、吸水率の低い材質を選定したり、
吸水して膨張した時の寸法をあらかじめ予測して製作する事もあるんですよ。