今回のテーマは
【引張強度・圧縮強度・曲げ強度からみるプラスチックの種類】
についてご紹介します。
皆さんはプラスチックを使用する時、どうやって材料を選定していますか?
プラスチックは使用条件によって選定する材料が変わってくるので、
とても難しいです。
弊社では
「摩耗」 「強さ」 「耐熱」 「価格」
といった、様々な条件を考慮して選びます。
その中から今回は、「強さ」についてお話します。
「強さ」(=強度と表記します)には色々なものがあります。
その中で、代表的なものが「引張強度・圧縮強度・曲げ強度」の3種類です。
それぞれがどういった強度を意味するのかをお話しします。
●「引張強度」
プラスチックを一定方向に引っ張ったときの
伸びや応力あるいは破壊する力を数値で表したものです。
一般に「伸び」というと感覚的にゴムやチューインガムなどを
思い出しますよね。
力を加えるとプラスチックも伸びようとする力が生じます。
と同時に伸びたくないという力も生じます。
この内部で生じる2つの力を応力と言いますが、
伸びたくない力も限界があります。
限界に達すると、伸びたくない力はあきらめてしまいます。
そしてもっと力を加えると、変形したり、ついには破壊します。
こういった力の限界を「引張強度」で表します。
●「圧縮強度」
圧縮荷重(押しつける力)を加え、材料が破壊されたときの力を表します。
多くのプラスチックは圧縮強度のほうが引張強度より大きい傾向にあり、
特に圧縮により破壊される材料は圧縮強度が重要視されます。
イメージとしては、コンクリートブロック等に荷重をかけていくと
大きく変形する前に粉々に砕けますよね。
この様な材料の事です。抽象的な言い方をすると硬い材質に多く
みられる傾向です。
プラスチックの中では、フェノール、エポキシ等の熱硬化性プラスチック
やカーボンなどがそうです。
但し多少の差はありますが、どの材質も破壊される前には変形が起こります。
しかし、破壊しない材料、例えばPTFEや
(俗称テフロン:メルマガバックナンバーをご覧ください)
UHMWPE(超高分子量ポリエチレン)などの圧縮強度は、
降伏点(変形が始まる点(荷重))や、例えば5%の変形が始まるなど、
ある一定の変形が起こる点(荷重)を圧縮強度として表すことがあります。
中には、破壊はするが降伏点や、変形点をもって圧縮強度としている
場合もあるのでそれぞれ各メーカー様のカタログ数値をご確認の上ご使用下さい。
●「曲げ強度」
曲げ荷重に対して亀裂や破壊が生じる力を表します。
「曲げ応力」という言葉がありますがここでの応力とは、
引張や圧縮の場合のときのように、単に外力の大きさだけを表す事は出来ず、
引張と圧縮の力が同時に生じるなど一つの外力に対して、
いろいろな力が関係してきます。
従いまして「曲げ強度」という言葉と「曲げ応力」という言葉は、
別のものと捉えた方がいいと思います。曲げ応力に関しては少し難しいので、
今回は割愛させて頂きますが、また機会があればメールマガジンのテーマに
取り上げたいと思います。
上記のように、言葉の定義から考えると「強度」とは破壊あるいは、
変形する力ととらえているので、実際にこの数値の力がかかる条件では
使用できません。
色々なプラスチックのカタログには、それぞれ強度の数値が書かれていますが、
何を重視するかを少しだけ見てみましょう。
例えば、以下に5つのプラスチックの強度を比較してみました。(代表例)
| 引張強度(Mpa)| 伸び(%)| 圧縮強度(Mpa) | 曲げ強度(Mpa)
———————————————————————-
PTFE | 20~34 | 400 | 10~15(23℃最大) | -
———————————————————————-
UHMWPE | 40 | 300 | 20(5%変形) | 22
———————————————————————-
PEEK | 98 | 20 | 119(5%変形) | 170
———————————————————————-
フェノール | 68~108 | - | 127~167 | 137~196
———————————————————————-
エポキシ | 245~343 | - | 147~245 | 294~392
———————————————————————-
※単位はMPa
こう見るとエポキシやフェノールが非常に強いように思いますよね。
でもフェノールやエポキシの引っ張り強度は伸びていくのではなく、
先述したように突然破壊されます。
従って伸びたものが元に戻ろうとする力(先に述べた応力)は期待できません。
ただし負荷には相当強いということが言えます。
次にPTFEは曲げ強度が記されていません。
これは破壊されず曲がり切ってしまうからです。
引っ張り強度は非常に低いですが伸びが400%です。
つまり小さな力でよく伸びると言う事です。
同じ事がUHMWPEにも言えます。
従ってこの2種類は負荷がかかる状況での使用では、
問題が起きやすい材質ですので注意が必要です。
PEEKはこの中では、フェノールやエポキシとPTFEやUHMWPEとの
中間に位置します。可もなく不可もなく、ってところですかね。
他のPPSやPOM、などのプラスチックも中間に位置します。
弊社の得意とする摺動部品(軸受やギヤー)は上記条件に、
「摩耗」 や 「耐熱」 といった他の条件も加味して、
ご提案させていただいております。
かなり荷重条件が厳しいところでUHMWPE等をご使用されているお客様から、
機械に不具合が起き「ちょっとみてくれないか」と相談がありました。
色々話をしていくとこの部品にたどりついたので様子を聞いてみると
「これは問題ないと思うよ」との回答。
しかし確認してみると、やはりその部品はかなり変形しており、
機械の中に収まっているときは、それにプラスして温度による変形も
生じて軸芯が取れず、機械の不具合原因になっていることが判明しました。
部品は変形してはいましたが、破壊されていなかったために
問題ないと思われていたのでしょう。
この場合は材質を選定しなおす事により荷重に対してはほぼ解決しました。
ただし、材質を変更すると摩耗や耐熱等の条件も変わってくるので
包括的にみる必要があります。
鉄の場合、硬さと引張強度がかなり比例関係にあるので
硬さと強さはほぼ等しいのですが、プラスチックは粘弾性物質、
つまり変形しやすい特性があるので、鉄のように単純にはいかないのです。
上記数値で見るとエポキシやフェノールはPTFEやUHMWPEに比べ
はるかに強度が高いのですが、実際に軸受けなどの機械部品に使用すると
PTFEやUHMWPEのほうが長持ちする場合も多々あります。
これは、他の条件が重要な要因となっているからです。
以上、カタログの数値を少しだけ解説してみました。