今回のテーマは 「プラスチックに関する温度」の中から「ガラス転移点」です。
前回・前々回と「プラスチックに関する温度」をテーマに
お送りしてきましたが、いよいよ今回でシリーズ最終回となります。
最終回である今回のテーマは“ガラス転移点”です。
“ガラス転移点”
ちょっと聞きなれないワードですね。
『えっ。ガラス? プラスチックの話でしょ?』
なんて声が聞こえてきそうですが、
“ガラス転移点”とはいったい何でしょうか、、、
ちょっとややこしい話ですので、
なるべく分かりやすいイメージでお話ししますね。
皆さんの回りにあるプラスチック。
熱を加えていくと、だんだんと柔らかくなりますよね?
最初はカチカチの状態でも、温めていくとだんだん柔軟性のある状態になり、
最終的にはドロドロの液体状になってしまいます。
逆も同じで、
液体状のものを冷やしていくとだんだんと柔軟性のある状態になって、
更に冷やしていけばやがてカチカチ状態に戻ります。
分かりやすく言うと、この冷えてカチカチ状態になることを
“ガラス状態になる”と言い、
その温度のことを“ガラス転移点”と呼ぶのです。
(実際はガラス状態から柔軟性のある状態に移りつつある点を
ガラス転移点と呼ぶのが一般的です。
ちなみにドロドロの状態というのがいわゆる“融点”ですね)
では、なぜ硬くなってしまったのでしょうか・・・?
それは、樹脂中の分子が活動を止めてしまったせいなんです。
さて、いきなりではございますが・・・
ここでクイズです(笑)
実は“ガラス転移点”を感じられるものが身近にあります、
さてそれは一体何でしょう?
ヒントは食べるものです。
皆さんも一度は口にしたことがあるはずです。
一度どころか毎日食べているヒトもいます。
出血大サービスです。3択でいきましょう。
(1)うめぼし
(2)ガム
(3)飴ちゃん (※大阪ではアメ玉のことを“飴ちゃん”と呼びます)
いかがでしょうか?
では正解発表です。
正解は(2)番のガムです。
ガムってどんな質感でしょうか?
“柔らかい”とか“ゴムみたいに伸びる”とか
イメージ的にはそんなところだと思います。
でも、よーく思い出してみてください。
クチの中に入れた瞬間はまだ硬さがあったハズです。
板状のガムを引っ張っても伸びずにチギれてしまいます。
ところが気がつけば柔らかくなっています。
実はあれこそが、この“ガラス転移”というものを
ウマく利用したものなんです。
何が起こっているのかと言うと、、、
クチの中でカラダの熱がガムに伝わり、
ガムのもつガラス転移温度を超えた結果、柔軟性のある状態に変化したのです。
すごいですね。ガムはこの状態変化を利用した商品だったんです。
そういえば夏にクルマの中に放置した板ガムを食べようとすると
ベタ付いていて気持ち悪く感じた記憶があります。
因みに樹脂の“ガラス転移温度”というのをいくつか挙げてみますと、、、
・PEEK:140℃程度
・PPS:90℃程度
・PVC(塩ビ):80℃程度
・PP(ポリプロピレン):-20℃程度
・PE(ポリエチレン):-80℃程度
などなど、種類によって全然違います。(メーカーや文献によっても違います)
“もしかして前々回のメルマガにも登場した“融点”と似ているのかな??”
と思ってしまったヒトがいらっしゃるかも分かりませんね。
誤解の無いように説明しておくと、
“融点”というのは融ける温度のことでしたが
“ガラス転移点”は、あくまでも性質が変化する温度のこと。
見た目に大きな変化が生じるという訳ではありません。
ですから“融点”というのとはちょっと違うのです。
また更には、“耐熱温度”というものとも違います。
例えば、樹脂ベアリングの材質にも使用している“PEEK”の耐熱温度は、
弊社では200℃程度とお客様にご紹介しております。
しかし上記を見ると、PEEKのガラス転移点は140℃程度となっています。
これは何も、ガラス転移点を超えたら使用不能になるという訳ではありません。
性質が変化する温度であって、140℃を超えた瞬間フニャフニャになって
使い物にならなくなってしまうという訳ではないんです。
少しややこしいかも知れませんが、その点だけお間違えのないよう捉えておいて下さい。
さて、この辺りで今回の説明は終了となりますが、
皆さん分かってもらえましたか?
“ガラス転移点” 知っていて損はありません。
樹脂材料の選定にもきっと役立ちます。
アイデアに自身のある方、“ガム”を越える大発明で一儲けしましょう!