今回は、プラスチックの物性の『熱膨張』についてです。
●熱膨張とは
・温度の変化によって、物質の大きさが変化することです。
・変化の大きさは各材質によって違います。
●熱膨張係数とは
・温度が1℃変化したときの物質の大きさの変化量を
比率で表したものが熱膨張係数です。
難しい感じがしますが簡単に言うと、材質により同じ温度環境でも
それぞれ膨張が違うため物質の大きさの変化量が違うということですね。
熱による膨張・・・ご経験ないでしょうか?
暑い日に自転車をアスファルトに駐輪していて、
タイヤがパンクしてしまった・・・
袋のままパンをレンジで温めたら、袋が破裂してしまった・・・など
これは温度の上昇により、空気が膨張したためです。
よく耳にされたことがあると思いますが、
列車の走行時にガタンゴトンと音がするのは、分岐点のほかに、
レール同士のつなぎ目の間に遊間と呼ばれる隙間がつくられています。
レールは鉄なので暑いとき伸び、寒いときには縮みます。
膨張による歪みを防ぐために、隙間があるんですね。
●参考数値
こちらが金属の熱線膨張係数(*1)です。(ほんの一例です)
【単位:(×10E-6/℃)】
S45C 11.7
SS400 10.2
SUS304 17.3
アルミニウム 23
(*1:線膨張についての説明は、非常に長くなりますので割愛します。
詳しくは弊社までお尋ね下さい)
こちらが弊社でよく使用するプラスチックです。
熱線膨張係数が大きい順に並べてみました!
数値が大きい方が変化量が大きいという意味です。
【単位:(×10E-5/℃)】
UHMWPE 19~10
PTFE 13.7~12.2
PP 10~5.8
PEEK 5.00
PPS 5.00
フェノール 4.5~3.0
カーボン 0.35
温度帯により膨張係数は同じ材質でも多少変わりますので、
詳しくは各メーカー様にお問い合わせください。
・・・お気づき頂けましたでしょうか?
金属は、×10E-6/℃【10のマイナス6乗】
樹脂は、×10E-5/℃【10のマイナス5乗】
小数点にすると、
金属 10E-6=0.000001
樹脂 10E-5=0.00001 になります
金属と樹脂では、一桁膨張係数が違うということです!!!
つまり金属より樹脂の方が、熱膨張だけをみると
寸法変化が大きいということです。
(※カーボンは例外になります)
「PTFEを使いたいが、寸法変化が大きくて使えない!」
そんな時は充填剤入りを使うことで、寸法変化を小さくすることが出来ます。
特にPTFEは充填剤が入ると膨張係数が下がり、強度も上がります。
当社ではPTFEのボールベアリングを販売していますが、
他社はほとんど扱っていません。
いかがですか?
材質によって、熱による大きさの変化、膨張はかなり違いがあるようです。
実際に熱膨張係数を調べてみると、メーカーごとに表記が異なります。
単位に気を付けてくださいね。
みなさまは実際に、寸法変化でお困りになったことはありませんか?
外れたり、動かなくなったりなど・・・みなさまが現在ご使用されている、
又は、設計中の機械でプラスチックと金属との併用の環境はありませんか?
では、実際に樹脂の軸受を使用した場合、どのように膨張するのでしょうか?
熱をかけると軸受は、基本的に外側に大きくなります。
但し、金属ハウジングに入れて使用する場合は、金属の方が樹脂より
熱膨張係数が小さいため、樹脂軸受は外側に大きくなれず、
その外側に広がりたい変化量が内径に移行し、内径が小さくなります。
その為、そういった膨張を考慮してクリアランスを取らないと、
シャフトとの隙間がなくなり回転しなくなります。
ボールベアリングの場合はどうでしょうか?
金属のボールベアリングに対して、樹脂のボールベアリングは
ガタ、隙間が大きいです。
その理由は、上記と同様です。
金属ハウジングにボールベアリングを入れ、シャフトに通して使用すると、
外輪は、外側に大きくなろうとしますが、ハウジングがあるため外輪内径が
小さくなります。
内輪は、内輪の外径が大きくなります。
その為外輪と内輪の間に入っているボールとの隙間がなくなり、
ボールがロックしてしまい、回転しなくなります。
つまり、金属より樹脂は熱膨張が大きいため、
樹脂のボールベアリングはガタ、隙間を大きくする必要があるのです。
では、加工時の熱膨張はどうでしょうか?
●切削油
刃物で物を削ると摩擦で熱が発生し、熱膨張を起こします。
加工直後と冷えてからでは寸法変化が起きます。
切削油は切削加工時に使用することより、
切削性能を上げることはもちろんですが、
油冷され加工時の寸法変化を軽減することができます。
但し樹脂等、吸水率があるものは吸水により寸法変化を起こすので、
ドライ加工、空冷(エアブロー)加工することも多々あります。
●熱膨張の応用編
焼きバメ・冷やしバメ
A内径にB外径を圧入する場合(リング状のもの)
(1)焼きバメ
Aのみに熱をかけ、A内径を大きくしてBを入れる
戻ると圧入状態になっている
(2)冷やしバメ
Bを冷却し、B外径を小さくしてA内径に入れる
常温に戻ると圧入状態になっている
(1)(2)とも熱膨張を利用した圧入方法です。
ただ、圧入シロはA、Bそれぞれの膨張係数を考慮しなければ、圧入後
使用環境、温度の変化によって、抜けてしまう可能性があります。
これはA、Bそれぞれ違う材質を使用した場合、
熱膨張係数が違うため、寸法変化の違いにより起こります。
お客様から金属公差のままでご依頼を受けることがありますが、
弊社では『金属に比べて樹脂は、精度が出にくいですよ。』と
お答えしています。
使用環境、温度の変化によって樹脂は金属より大きく寸法変化するからです。
材質により膨張の度合いは異なります。
その為、金属より大きく公差を取ることをおすすめしております。
金属と樹脂では熱膨張係数だけではなく、
以前のメルマガでご紹介しました吸水率から見ても大きく異なり、
総合的に判断しないと最適な商品に仕上がりません。
プラスチック(樹脂)の吸水率